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SF作品から読み解く共同体と疎外の関係

 

SF作品の多く、とりわけ地球圏を超えた作品のほとんどには地球外の知的生物の存在がみられる。私は2つのSF作品に登場する地球外生命体とその描かれ方から人間(ここでは地球人)と地球外生命体のあり方を考察したい。

 私が最初にとりあげるのは「テラフォーマーズ」という漫画だ。この漫画は地球を襲った未知のウィルスの抗体を得るため火星へ降り立つ人類と、500年かけて火星で独自の進化を遂げたゴキブリたち(テラフォーマー)との戦いを描く漫画である。この作品におけるゴキブリは人間とほぼ同じ大きさで2足歩行をしており、猿のような顔をしている。シルエットだけでみれば人間とほぼ変わりはない。また彼らは高い知能を身に着けており、人間の扱う武器や技術を奪い、仲間と連携をとりながら人間を襲ってくる。さまざまなSF作品に登場するほかの知的生命体と比べても彼らの攻撃性はとりわけ高く、それらの作品によく見られるように人間と対話したりすることはまずない。自分たちの住む火星に降り立った人類をただ「害虫」として駆除してくるのだ。

 そしてもうひとつ私が取り上げるのは言わずと知れたスペースオペラの名作「スターウォーズ」だ。私がなぜこの作品を取り上げたかというと、この作品では様々な惑星が舞台となりそれぞれの星には多様なエイリアン達が存続していながら普通の人間とエイリアンとの間の種族間の対立や軋轢などは作中では一切描かれていない。(劇中では描かれていないだけで数多くの種族に独自の設定は存在している。)この作品の主なテーマはあくまで正義(ジェダイの騎士)と悪(シスの暗黒卿)の対立であり、どちらか与するエイリアンも存在し、また特に関与しない者もいる。数多くの種族がそれぞれの特徴を持ちながらも当たり前に交流し、生活を営んでいる。

 これらの2作品に登場する地球外生命体と人間の関連性から共同体と疎外について、私は大きく2つの異なる点に注目した。まず1つめは、コミュニケーション手段の有無だ。

テラフォーマーたちは姿かたちこそ人間に近づき、また知能も発達しているものの作中では「じょうじ」ということば(意味はまだ作中でも明らかにされていない)のみを発し、また人間を見るなり即座に攻撃してくることから言語、非言語を問わずコミュニケーションをとる手段は皆無に等しい。その点スターウォーズに登場する各エイリアン達は容貌こそ人間と近いものからまるで異質なものも存在してこそいるものの、言語はほぼ共通のものが使用されている。一部、種族固有の言語を話すエイリアンもいるが、それは自分の仲間と話すときのみに用いられることが多い。また人語を話せない場合でも人語を理解することはできている描写がされている。

 もう1つの点は、それぞれの種族が持つテリトリーである。「テラフォーマーズ」では人類は地球、テラフォーマーたちは火星に生息しており、作中ではテラフォーマーたちの住処である火星に人間が足を踏み入れた形となる。火星でゴキブリたちが500年の進化を遂げている間に人類が火星に行くことはほとんどなく、交流も図りようがなかった。それに対して「スターウォーズ」では各エイリアンは主な出生地である惑星こそ存在するものの、その多くがさまざまな惑星に移住しており、また作中で大都市として描かれているいくつかの惑星では多種多様なエイリアン達が交流している。人間の登場人物こそ多いものの、彼ら固有の土地や惑星、といった環境は特にみられない。自分たち固有のテリトリーや縄張り意識は確かに共同体の一体感を高めはするが、そのぶん異質なものを疎外しやすくなるのである。

 これの点から共同体と疎外の問題の解決策を考えると、①同じ種族でかたまりすぎた環境をつくらないことと②積極的にコミュニケーションをとることの2つが最重要だと思われる。この2つはリンクしており、①のような環境はお互いの性質や生活スタイルを理解し異質な他者を頭ごなしに否定しない結果をもたらし、コミュニケーションの必要性を生む。また、コミュニケーションをとること自体も重要だがまずそのための手段(2つの作品の例をあげると「テラフォーマーズ」では一部の人間しか火星にはいけないのに対し、「スターウォーズ」では個人レベルで他の惑星に行くことが可能、など)を充実させることも等しく必要だ。

 

itsui

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